まだ、知らない。私の本当の姿。

佑磨を見かけたのは、私がちょうど花盛りの頃。

佑磨が、あんまりにも可愛い顔して、居眠りしてたから、つい手が出てしまった。

私はまず、佑磨の頬に優しく触れてみた。乾燥しているが、柔らかい。

起きなかった。

次に、鼻のあたりでふわっと香ってみた。

鼻がもぞもぞ動くのが面白くて、私はくすくす笑った。

そのとき、佑磨の目が開いた。

ぼんやりとあたりを見て、携帯で時間を確認している。

私は西の方をちょっと仰いで、聞き耳を立て、レグルス様に許しをもらおうとした。

「春だしね。」

レグルス様は、あっさりと許した。

「一人ぐらい、もらったっていいんだよ。」

私はにっこりして、佑磨のところに行った。

春の大星、レグルス様は、私に春風をつけてくれた。

これで、嵐を起こそうかな。

風に乗せて、花びらをちらちら舞わせた。佑磨は携帯を見ていた。

私は風に乗って、その日一日、佑磨の様子を見守った。

佑磨は、野球部の新歓コンパに行くようだった。

野球なんて、興味はないけど、マネージャーになりたいふりをして、潜入に成功した。

「名前、なんていうんだっけ。」

縁もたけなわになった頃、佑磨のところに行った。

「浅井佑磨。そっちは?」

「篠崎美緒。よろしくね。」

適当に、思いついた名前を言った。

「美緒かぁ。」

「そう。野球部の人、いい人そうだね。」

「うん。美緒はマネージャー?」

「当たり前じゃん!」

こいつ、割とバカなのかも。

「だよね、あはは、ごめん。」

頭はよくないみたいだけど、笑った顔がかわいい。

「ねえ、今日は雨が降るから、早く帰った方がいいよ。」

「え?でも、先輩がまだいるし。」

「この飲み会が終わったらだよ。」

「そうなんだ。教えてくれてありがとう。」

「いえいえ。」

そう言って、私は席を立った。

しばらくして、飲み会が終わった。

湿った風が、あたりの人の顔を撫で、いかにも春の夜という感じだった。

すぐに雨が降り始めた。濡れたアスファルトの匂いがして、風が強くなり、ピカッと雷が光った。

轟音があたりに響き、それは紛れもない春の嵐だった。

女の子が騒ぎながら、地面にうずくまる。

あわてて新入生を帰し始める先輩たち。

「きみ、美緒だよね?」

駅に向かう道の途中で、佑磨が話しかけてきた。

「あ、佑磨。」

「本当に、降ったね。」

「傘持ってないの?」

「天気予報で、やってなかったよ。」

「そっか。じゃあ、入る?」

え、いいの、という顔をして、私の顔を覗く。

酔って、べろんべろんになったのかと思ったら、いちおう、まだ余裕はあるらしい。

「いいの?」

「いいって。ほら。」

肘のあたりを引っ張って、ぴったり引き寄せた。

傘のなかで、駅につくまでの短い間、二人はお互いに探りあった。

口も、手も、全身を使って。

彼はまだ知らない。

私の本当の姿。

私が、彼に望むもの。

春が終わるまで、桜が散るまで、もう少し遊ぼう。

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